物理とか

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ポインティングベクトルの計算・複素表示と実時間表示


1.Poyntingベクトル

電磁波のエネルギーの流れを示す

Poyntingベクトル

の計算に関して少し扱っておこうと思う。
Poyntingベクトル\(\b{S}\)とは以下のように定義される。(ここを参照) \[\b{S}=\b{E}\times\b{H}\tag{1}\] 前回と同じように話を簡単にするため、波数ベクトルはx方向、電界はy方向、磁界はz方向を向いているとして、 \begin{align} \b{E} &= E_0\b{e}_ye^{i(\omega t - kx)} \\\\ \b{H} &= H_0\b{e}_ze^{i(\omega t - kx)} \end{align} という平面波解について考えていこう。と、さっそくこの平面波解を(1)に代入...と行きたいところだが、Poyntingベクトルはエネルギーを表すものなので、先に電界や磁界の実数部だけをとって意味のある形にしてしまわないといけない。

つまり、上のような複素表示された平面波については、 \[\b{S}=Re[\b{E}]\times Re[\b{H}]\tag{2}\] によってPoyntingベクトルを計算しなくてはならない。波数ベクトルkが一般には実数だけでは無いということに注意して、今回は媒質の屈折率を使って、 \[k=\frac{\bar{n}}{c}\omega = \frac{n+i\kappa}{c}\omega\] と書こう。(複素屈折率参照。別に知らなくてもこういうふうに表せられるんだと思ってもらえればいい。)また、電界と磁界の位相が一緒では無いときは、電界や磁界の振幅の部分\(E_0,H_0\)は複素数で書かなくてはいけない。そこで\(E_0 = |E_0|e^{i\phi_E},~H_0 = |H_0|e^{i\phi_H}\)と書くことにしよう。ちなみに\(\phi_E -\phi_H = \tan^{-1}(\kappa/n)\)である。(電界と磁界の関係参照)すると、 \begin{align} \b{E} &= |E_0|\b{e}_ye^{i\omega(t - \frac{n}{c}x)+i\phi_E}e^{-\frac{\kappa\omega}{c}x} \\\\ \b{H} &= |H_0|\b{e}_ze^{i\omega(t - \frac{n}{c}x)+i\phi_H}e^{-\frac{\kappa\omega}{c}x} \end{align} となる。
これの実数部だけをとってやると、 \begin{align} Re[\b{E}] &= |E_0|\b{e}_y\cos\left\{\omega(t - \frac{n}{c}x)+\phi_E\right\}e^{-\frac{\kappa\omega}{c}x} \\\\ Re[\b{H}] &= |H_0|\b{e}_z\cos\left\{\omega(t - \frac{n}{c}x)+\phi_H\right\}e^{-\frac{\kappa\omega}{c}x} \end{align} これでやっと実数部だけを取り出すことができた。これが実時間表示と呼ばれるものである。次に(2)に代入して、ポインティングベクトルを求める。 \[\b{S} = |E_0||H_0|\cos\left\{\omega(t - \frac{n}{c}x)+\phi_E\right\}\cos\left\{\omega(t - \frac{n}{c}x)+\phi_H\right\}e^{-\frac{2\kappa\omega}{c}x}\b{e}_x\] となる。ところで、\(H_0 = B_0/\mu_0\)と表せるし、前回の話から、\(B_0 = (\bar{n}/c)E_0\)という関係性があったのだった。したがって、
\[\b{S} = \frac{|\bar{n}|}{c\mu_0}|E_0|^2\cos\left\{\omega(t - \frac{n}{c}x)+\phi_E\right\}\cos\left\{\omega(t - \frac{n}{c}x)+\phi_H\right\}e^{-\frac{2\kappa\omega}{c}x}\b{e}_x\tag{3}\] ということができるだろう。複素表示された電界と磁界を扱うときは少し注意して計算しなくてはならないのが分かっただろう。これで終わり。というのはなんとも味気ないので、時間平均くらいは求めておく。

2.Poyntingベクトルの時間平均

時間平均をとるということはすなわち実際のエネルギーの流れをみてやるということだ。求めるには一周期分時間積分してやって、その周期で割ってあげればよい。さっそくやってみる。
さて、時間平均を\(<\b{S}>\)とおく。まずはさっき求めたポインティングベクトル((3)式)を少しいじって積分しやすくしよう。三角関数の加法定理から2cos(x+a)cos(x+b)=cos(2x+a+b)+cos(a-b)であることが言えるので、 \[\cos\left\{\omega(t - \frac{n}{c}x)+\phi_E\right\}\cos\left\{\omega(t - \frac{n}{c}x)+\phi_H\right\} = \frac{1}{2}\cos\left\{2\omega(t - \frac{n}{c}x)+\phi_E+\phi_H\right\} + \frac{1}{2}\cos(\phi_H-\phi_E)\] とできて、この関数の周期は\(\pi/\omega\)であることがわかる。したがって、時間平均は、次のように積分で計算できる。 \begin{align} <\b{S}> &= \frac{\omega}{\pi}\int_0^{\pi/\omega} \b{S} dt \\\\ &= \frac{\omega}{\pi}\int_0^{\pi/\omega} \frac{|\bar{n}|}{2c\mu_0}|E_0|^2 \left[\cos\left\{\omega(t - \frac{n}{c}x)+\phi_E+\phi_H\right\}+\cos(\phi_H-\phi_E)\right]e^{-\frac{2\kappa\omega}{c}x} \b{e}_x dt \\\\ &= \frac{\omega}{\pi}\frac{|\bar{n}|}{2c\mu_0}|E_0|^2e^{-\frac{2\kappa\omega}{c}x}\b{e}_x\int_0^{\pi/\omega} \cos(\phi_H-\phi_E)dt \\\\ &= \frac{|\bar{n}|}{2c\mu_0}|E_0|^2e^{-\frac{2\kappa\omega}{c}x}\b{e}_x\cdot\cos(\phi_H-\phi_E) \\\\ &= \frac{|\bar{n}|}{2c\mu_0}|E_0|^2e^{-\frac{2\kappa\omega}{c}x}\b{e}_x\cdot\frac{n}{\sqrt{n^2+\kappa^2}}~~~~~~(\because tan(\phi_H-\phi_E)=\frac{\kappa}{n}) \\\\ &= \frac{n|E_0|^2}{2c\mu_0}e^{-\frac{2\kappa\omega}{c}x}\b{e}_x ~~~~~~~(\because |\bar{n}|^2=n^2+\kappa^2)\tag{4} \end{align} ちなみに、\(\kappa=0\)として媒質の特性インピーダンス\(Z=\sqrt{\epsilon/\mu}\)を使うなら、 \[<\b{S}>=\frac{|E_0|^2}{2Z}\b{e}_x\tag{5}\] ともかける。この(5)式の形が、わりと馴染み深いものだろう。

3.複素ポインティングベクトル

よく、

複素ポインティングベクトル

として、 \[\bar{\b{S}}=\b{E}\times\b{H}^*\tag{6}\] というのを習う人も多いだろう。(*は複素共役を表す。)複素といっているんだから当然電界と磁界は \begin{align} \b{E} &= E_0\b{e}_ye^{i(\omega t - kx)} \\\\ \b{H} &= H_0\b{e}_ze^{i(\omega t - kx)} \end{align} のような複素表示を使うわけだ。一応さっきと同じように、 \begin{align} E_0&= |E_0|\b{e}_ye^{i\omega(t - \frac{n}{c}x)+i\phi_E}e^{-\frac{\kappa\omega}{c}x} \\\\ H_0&= |H_0|\b{e}_ze^{i\omega(t - \frac{n}{c}x)+i\phi_H}e^{-\frac{\kappa\omega}{c}x} \end{align} というふうに直してから(6)に代入して計算してみると、 \[\bar{\b{S}}=|E_0||H_0|\b{e}_xe^{i(\phi_E-\phi_H)}e^{-\frac{2\kappa\omega}{c}x}\tag{7}\] となって、複素ポインティングベクトルが一応計算できた。注目するべきは、複素共役をとってから計算したおかげで、波の項\(e^{i\omega(t - \frac{n}{c}x)}\)が消えたというところだ。

(7)式は、いうなれば複素数のエネルギーであり、物理的な意味はあんまりつかめない。しかし、例えば実数部をとってみると、 \[Re[\bar{\b{S}}]=|E_0||H_0|\b{e}_x\cos(\phi_E-\phi_H)e^{-\frac{2\kappa\omega}{c}x}\tag{8}\] となって、さっき求めたポインティングベクトルの時間平均(4)式の2倍に一致する。つまり、 \[<\b{S}>=\frac{1}{2}Re[\bar{\b{S}}]=\frac{1}{2}Re[\b{E}\times\b{H}^*]\tag{9}\] であるわけだ。教科書で(9)式だけをみるとなんで1/2がつくのか、なんで複素共役をとるのかわからないが、この辺の式展開をしっかりできるようになれば、波の複素数表示に関してもう一つ理解が進むだろう。つまり、複素ポインティングベクトルを(6)のような形で定義するのは、波の因子を消して、その実数部が本当のポインティングベクトルの時間平均を与えるように決めるためだったのだ。

ちなみに、複素ポインティングベクトルの虚数部は、電気回路でいう無効電力に相当することもなんとなくわかるだろう。さらにいうなら、複素ポインティングベクトルの大きさは、電気回路で言う皮相電力に相当する。